2026.03.30:
介護系SUインタビュー|株式会社aba様【企画編】

このたび、介護テクノロジー領域で先進的な取り組みを進める株式会社aba様にインタビューを行いました。
本インタビュー記事は「企画編」
「開発編」
「販売編」
の三部構成でお届けします。まずはこちらの「企画編」からご覧ください。
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株式会社aba 代表取締役CEO 宇井吉美様
医療・介護現場の課題解決に取り組むケアテック企業。宇井氏自身が大学時代に起業しにおい感知型の排泄検知センサー『ヘルプパッド』を開発。現在、第二世代のヘルプパッドは、全国の介護施設や病院に導入。ロボティクスと現場知見を融合し、質の高い介護を支える仕組みづくりを推進している。
介護系スタートアップ支援事業powered by CARISOサポーターとして活動するとともに、第1回CARISO Caretech Startup Awardsにおいてグランプリを受賞。
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- 介護テクノロジー(介護テック)業界で起業した理由を教えてください
- 介護テック業界特有の課題は? どのように乗り越えましたか?
- abaの製品、「排泄検知センサー」が生まれたきっかけを教えてください
- プロダクトが完成するまでの試行錯誤を教えてください
「介護領域の仕事をしよう」と決めたのは、中学生の頃。同居していた家族が病気になり、私自身が“家族介護者”として家族を支える立場になったことがきっかけでした。
介護経験の中で痛感したのは「支える側が潰れてしまいかねない大変な状況。介護者が人を支え続けるのには限界があるのではないか」ということでした。そして介護領域での仕事を考えるとき、医師や看護師、介護職といった道を選ぶ気持ちにはなりませんでした。「“人だけで人を支えていく構造”には無理がある」と、どうしても考えてしまったからです。
そんなとき、高校時代に出会ったのが“介護支援ロボット”という分野でした。「人間の力以外の方法で、人を支える仕組みをつくる」ことを目指していたので、これだ!と思いましたね。その後大学の工学部に進学し、介護者を支えるためのロボット開発を研究し、大学在学中の2007年に学生プロジェクト「aba (awakened bunch activity)」立ち上げました。11年には株式会社abaを設立。以来、現在に至るまで20年近く、介護ロボット・介護テクノロジーを通じて、介護領域に関わり続けています。
起業当時、介護テックの開発で最初にぶつかった“壁”は、“現場理解”でした。私は家族介護者でしたが、おむつ交換のような身体介護の経験はありませんでしたし、工学部のエンジニア出身の私には、介護の現場の方々が困っていること、さらにはその行間にあるものが掴み切れずにいました。
そこで、土日に介護職として働く、というチカラ技で、現場の“行間”を読み取りにいきました。3年間続けて、介護現場を理解することに務めました。
介護テック業界の課題は、支援を受ける本人、介護者、施設といったステークホルダーが多く、また人の生活支援という極めて複雑な営みを、エンジニアリングとして理解しなければならない点にあります。必ずしもスマートなやり方ではありませんが、自分自身が現場に飛び込むことが、結果的には一番の近道だと感じています。1週間や1カ月だけでも現場の職員の方々がどのように仕事をしているのか見れば、開発の“解像度”はぐっと上がると思います。
大学生の時、特別養護老人ホームの実習で排泄介助の現場を見学する機会がありました。高齢者の方が便座に座り、介護職員が二人がかりで身体を支えながら、腹圧をかけて排便を促す。ご本人は要介護4〜5の状態で、状況を十分に理解することも難しく、叫び声を上げておられました。人生で初めて身体介護の現場を目の当たりにした私は、あまりの衝撃にその場で泣いてしまいました。そしてそこにいた介護職員に「これは、ご本人が望んでいるケアなんですか」と、まっすぐに問いかけてしまったのです。
返ってきた答えは、「わからない」でした。この方はデイサービスを利用されており、夕方には自宅に戻られる。ご家族が排泄ケアを担う負担は非常に大きく、「できる限り施設にいる間に排便させてほしい」という家族の切実な要望もある。医師やケアマネジャーを含めて話し合いを重ねた結果として、そのケアが選ばれている。でも、それが本人の望みかと聞かれると、わからない――そう説明されました。
それを聞いて、「自分は何てことを聞いてしまったんだろう」と、顔から火が出る思いで、強く反省しました。一番悩み、葛藤しながらケアに向き合っているのは、まさにその介護職員の方々だったからです。同時に、答えのない問いに毎日向き合い、人生の最終段階の“ラストワンマイル”をサポートしている介護職員の方々を、心から尊敬するようになりました。そして、「この人たちの力になりたい」と強く思ったのです。
「おむつを開けずに中が見たい」という言葉は、確かに製品開発の直接のきっかけです。しかし、事業継続の原動力は、この経験があったからにほかなりません。悩みながらも、その日その瞬間にできる最善を尽くそうとする介護職の方々に伴走し、「支える人を支えたい」。その思いは、家族介護者としての私自身の原体験とも重なります。だからこそ、この事業に取り組み続けています。
プロダクトの“形そのもの”は、かなり早い段階で決まっていました。「身体に装着せずに、においを検知する」というコンセプトは、起業した11年頃には、すでにこれでいこうと決めていました。
私たちが「非装着型」「におい」に強くこだわり続けた理由は、とてもシンプルです。「通所者・入居者の体に機械を付けたくない」、そして、「尿と便の両方を把握したい」という介護職員の方々の強い要望があったことです。
特に「ご利用者の身体に機械を付けたくない」と口にする介護職員の方々が持っているのは「介護は“生活支援”である」という考え方でした。生活の場を乱してまでテクノロジーを使うことは、生活支援に携わる者として避けたい、と。そこは介護職員にとって「踏み越えてはいけない一線」であり、プロフェッショナルとしての矜持であると感じています。
2つの要望を、現代の技術で同時に満たそうとすると、私たちの答えは自然と、シート型のにおいセンサーに行き着きました。開発過程では介護業界の方々と多くの対話を重ね、三桁に近い方々の声を伺ってきたと思います。もちろん、現場からはほかにもたくさんの要望が出てきていました。あれもできたらいい、これもできたらいい、と。その中でどの声を“センターピン”として捉えるのか。どこを軸にものづくりをするのかは、介護テックを手がける側の力量が問われる部分だと感じています。
また介護職員の方々からの要望の中から、「どこが本当に大事な一線なのか」「どこが絶対に守るべき価値なのか」を見極めること。そのために、介護職員の方々が、何を専門性として大切にしているのか――その視点を持って話を聞き続けることが、結果的にプロダクトを間違えないための一番の近道だったと、今は感じています。
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